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2025.07.03

歯周病と癌:見過ごされがちな口腔と全身の健康のつながりを江東区北砂の歯科医師が解説

近年の研究によりわかっていますが
「歯周治療を担当している患者 2 人のうちの 1 人は一生のうちにがんと診断されます。さまざまな臓器(口腔,食道,肺,膵臓,乳房,胆のう,皮膚,大腸 など)に発生するがんのリスクを,歯周病が高めるかどうかについての疫学的な検討では, 報告によってその結論は一定しないが,最新のシステマティックレビュー では19 の 疫学研究を網羅的に検討し,消化器がんのリスクが歯周炎によって有意に増加する(31%) ことを報告している

となっています。

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「歯周病は歯周病、癌は癌でしょう?」そう思われる方も多いかもしれません。しかし先ほども述べたように、お口の健康、特に歯周病と、全身のさまざまな病気、中でも「癌」との間に意外な関連性があることが分かってきました。

ちなみに歯科医院で見つかる癌も案外あります。舌癌、咽頭癌、歯肉癌、または癌化のリスクの高い扁平対戦など様々な疾患があります。
口腔癌は早期発見の場合生存率が高い癌です。ところが発見が遅れた場合、頭頚部に近いため予後が悪い癌でもあります💦

本記事では、最新の科学的根拠に基づいて、歯周病がどのように癌のリスクに関わってくるのか、そして、私たちが今日からできる予防策について詳しく解説していきます。

1. 歯周病ってどんな病気?基本的なお話

歯周病は、歯を支える歯茎や顎の骨が、歯周病菌によって炎症を起こし、じわじわと破壊されていく病気です。初期には自覚症状が少ないため、気づかないうちに進行していることが多く、「サイレントキラー(静かなる病気)」とも呼ばれます。

主な原因は歯垢(プラーク)の中の細菌ですが、喫煙や糖尿病、ストレスなども病気を悪化させる大きな要因となります。歯周病は単なるお口の中のトラブルではなく、慢性的な炎症が全身に波及する可能性を秘めているのです。

2. 口腔のトラブルが全身に影響?歯周病と全身疾患の関連性

お口の中は、食べ物の入り口であり、全身の健康に大きな影響を与えます。歯周病菌や、歯周病によって引き起こされる炎症物質は、血流に乗って全身を巡ることがわかっています。

日本歯周病学会の報告(日本歯周病学会, 2015)にもあるように、歯周病は糖尿病、心臓病、脳卒中、誤嚥性肺炎など、多くの全身疾患と密接に関連していることが指摘されています。これは、歯周病による慢性炎症が全身の免疫機能や血管に影響を及ぼすためと考えられています。

3. 歯周病が癌のリスクを高める?その驚くべき関連性

近年、歯周病が特定のがんのリスクを高める可能性を示唆する研究が増えてきました。では、なぜ歯周病が癌に関わるのでしょうか?考えられる主なメカニズムは以下の通りです。

・慢性炎症の全身への波及

歯周病が長期にわたって続くと、体内で慢性的な炎症が起こります。この炎症が全身に波及することで、細胞のDNAが傷つきやすくなったり、細胞の異常な増殖を促したりする可能性があります。これが、がん細胞の発生や成長につながるという考え方です。

・歯周病原菌の直接的な影響

歯周病を引き起こす細菌の中には、口腔内だけでなく、消化器系や呼吸器系など、他の体の部位へ移動し、そこで炎症や細胞の変化を引き起こすことで、癌の発生や進行に関与する可能性が指摘されています。特に、口腔がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、大腸がん、肺がんなどとの関連が研究されています。

・免疫システムの変調

慢性的な炎症は、私たちの体を守る免疫システムの働きを変化させることがあります。これにより、通常であれば癌細胞を排除するはずの免疫機能が十分に働かなくなり、癌の増殖や転移を許してしまう可能性も考えられます。

特に、口腔がんについては、歯周病による長期的な炎症や刺激が、口腔粘膜の細胞に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。また、歯周病菌が消化管へ移行することで、消化器系のがんリスクを高めるという報告もあります(日本歯周病学会, 2015)。

ただし、現時点では「歯周病が直接的に癌を引き起こす」と断言できるほどの明確な因果関係が確立されているわけではありません。「癌のリスクを高める可能性」がある、という点を理解しておくことが重要です。

4. 癌治療と口腔ケア:見落とされがちな重要な連携

癌の治療を受ける患者さんにとって、口腔ケアは非常に重要な意味を持ちます。特に化学療法や放射線治療は、口内炎、粘膜炎、味覚の変化、口の渇き(口腔乾燥症)など、さまざまな口腔内の副作用を引き起こすことがあります。

これらの副作用は、食事が摂りにくくなったり、お口の中が清潔に保てなくなったりすることで、感染症のリスクを高め、癌治療の継続や患者さんの生活の質(QOL)に大きく影響します。

そのため、癌治療を始める前の口腔内のチェックと必要な治療(感染源の除去など)、そして治療中の丁寧な口腔管理が非常に大切になります。日本歯周病学会は、糖尿病患者さんの歯周治療ガイドライン(日本歯周病学会, 2023)でも、全身疾患を持つ患者さんへの包括的なアプローチの重要性を示しています。

5. 今日からできること:歯周病予防と口腔ケアの重要性

歯周病と癌の関連性を踏まえると、日々の口腔ケアと定期的な歯科検診がいかに大切であるかがお分かりいただけたでしょうか。癌のリスクを低減するためにも、以下の点に気をつけましょう。

  • 毎日の丁寧な歯磨き(ブラッシング): 歯周病の基本は、原因となる歯垢を徹底的に除去することです。ご自身に合った歯ブラシを選び、正しい方法で磨きましょう。
  • 歯間ブラシやフロスの活用: 歯ブラシだけでは届かない歯と歯の間や、歯周ポケットの中の汚れを効果的に除去できます。
  • 歯科医院での定期的なメインテナンス(SPT: Supportive Periodontal Therapy): ご自身でのケアだけでは限界があります。歯科医院で専門的なクリーニングを受け、歯周病の進行をチェックしてもらいましょう。日本歯周病学会のガイドライン(日本歯周病学会, 2022)でも、メインテナンスの重要性が強調されています。
  • 禁煙: 喫煙は歯周病を悪化させる最大の要因の一つであり、同時に多くの癌のリスクも高めます。禁煙は、お口と全身の健康を守る上で非常に重要です。
  • 全身疾患の管理: 糖尿病など、歯周病と関連する全身疾患がある場合は、その疾患の適切な管理も歯周病予防に繋がります。

結論:口腔の健康は全身の健康の入り口

歯周病は、単なるお口の中の病気ではなく、全身の健康、ひいては癌のリスクにも影響を与える可能性のある病気です。しかし、適切な口腔ケアと定期的な歯科医院での管理によって、そのリスクを低減することができます。

今日からできることを実践し、お口の健康を守ることで、より健やかで豊かな人生を送りましょう。

引用文献
  1. 日本歯周病学会. (2015). *歯周病と全身の健康: JSP Evidence Report on Periodontal Disease and Systemic Health, 2015*. 特定非営利活動法人 日本歯周病学会.
  2. 日本歯周病学会. (2022). *歯周治療のガイドライン 2022*. 特定非営利活動法人 日本歯周病学会.
  3. 日本歯周病学会. (2023). *糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第3版*. 特定非営利活動法人 日本歯周病学会.
  4. Pjetursson, B. E., Helbling, C., Weber, H. P., Matuliene, G., Salvi, G. E., Brägger, U., Schmidlin, K., Zwahlen, M., & Lang, N. P. (2012). Peri-implantitis susceptibility as it relates to periodontal therapy and supportive care. *Clinical Oral Implants Research, 23*(7), 888-894.
  5. Serra, N., et al. (2020). Treatment of stage I-III periodontitis: The EFP S3-level clinical practice guideline. *Journal of Clinical Periodontology*.

院長

下田隆司
下田隆司

砂町銀座の通りにある歯科医院のブログです。
砂町北歯科院長として日々多くの患者さまのニーズやお悩みにお応えしています。
セカンドオピニオンにも対応しています。お口のお悩みなら砂町北歯科へお気軽にご相談ください。