「歯医者さんには、歯が痛くなってから行けばいい」。
もしそう思っているなら、少しだけ耳の痛い話をさせてください。
開業して8年の臨床現場で、本当に多くの患者様と向き合ってきました。その中で最も胸が痛むのは、「もう少し早く来てくだされば、この歯は残せたのに」という瞬間です。
多くの患者様は、「痛み」を合図に受診されます。しかし、歯科医療の現実をお伝えすると、痛みが出た時点ですでに病気はかなり進行しており、治療は複雑化し、時には抜歯を避けられない状態になっていることが多いのです。
今日のブログでは、なぜ私たち歯科医療従事者がこれほどまでに「定期検診(メンテナンス)」をしつこくお勧めするのか。その理由を、最新のガイドラインとエビデンスに基づいて、「沈黙の病気」「全身への影響」「経済的メリット」という3つの視点からお話しします。
1. 「沈黙の病気」への対抗:なぜ自分では気づけないのか
皆さんが最も恐れる「歯周病」や「虫歯」。これらは初期段階において、驚くほど自覚症状がありません。専門的には「Silent Disease(沈黙の病気)」と呼ばれます。
日本歯周病学会のガイドラインによれば、歯周病は、歯を支える骨(歯槽骨)が溶け始めている段階でも、痛みを感じることはほとんどありません(日本歯周病学会, 2022)。「歯ブラシをすると血が出る」「なんとなく歯茎がむずがゆい」。これらはすでに体からのSOSサインです。しかし、多くの方はこのサインを見逃し、あるいは「疲れているだけだ」と放置してしまいます。
歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)の奥深くで繁殖する歯周病菌は、ご自身の歯磨きだけでは決して除去できません。この細菌の塊(バイオフィルム)は、専門家による機械的な清掃(プロフェッショナルケア)でのみ破壊できます。痛みがなくても進行する病気だからこそ、プロの目による定期的な監視と、専門的なクリーニングが必要なのです。
2. 口は災いの元?全身の健康と歯周病の深い関係
「口は全身の入り口」と言われますが、これは単なる比喩ではありません。近年の研究により、口腔内の健康状態が、全身の深刻な病気と密接に関連していることが明らかになっています。
特に注目すべきは糖尿病との関係です。
糖尿病と歯周病は「相互に悪影響を及ぼし合う」という負のスパイラル関係にあります。最新のガイドラインでは、糖尿病患者は非糖尿病者に比べて歯周病の発症率が高く、重症化しやすいことが示されています(日本歯周病学会, 2023a)。一方で、歯周治療を行い口腔内の炎症をコントロールすることで、血糖値の指標であるHbA1cが改善する可能性も報告されています。
また、歯周病菌やその炎症物質が血流に乗って全身を巡ることで、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることも分かってきました(日本歯周病学会, 2015)。さらに高齢の方にとっては、お口の中の細菌が肺に入ることで引き起こされる誤嚥性肺炎が命に関わる重大なリスクとなります。
つまり、定期検診でお口をきれいに保つことは、単に「歯を守る」だけでなく、「心臓を守り、糖尿病を管理し、肺炎を防ぐ」こと、ひいてはあなたの命を守ることに直結しているのです。
3. 生涯医療費を変える「長期的コストパフォーマンス」
「定期検診はお金がかかる」と感じる方もいるかもしれません。しかし、長期的な視点で見ると、定期検診は極めて投資対効果の高い行動です。
もし定期検診を怠り、歯を失ってしまったらどうなるでしょうか?
失った機能を回復するためには、ブリッジ、入れ歯、あるいはインプラントといった治療が必要になります。特にインプラント治療は優れた機能回復手段ですが、外科手術を伴い、費用も高額になることが一般的です(日本歯周病学会, 2018)。
場合によっては100万以上の金額がかかることもあります。
また、高齢になっても自分の歯が多く残っている方(8020達成者)は、そうでない方に比べて生活の質(QOL)が高く、全身の医療費も低く抑えられる傾向にあります(日本歯周病学会, 2023)。
数ヶ月に一度の検診費用と、将来歯を失った際にかかる高額な治療費や、噛めなくなることによる精神的・肉体的ストレス。これらを天秤にかければ、どちらが「お得」かは明白です。
まとめ:あなたの「健口」が未来を変える
歯科医院は「歯を削る場所(Cure)」から、「歯を守り、育てていく場所(Care)」へと役割を変えています。
「痛くないのに歯医者に行く」ことは、最初は勇気がいるかもしれません。しかし、その一歩が、10年後、20年後のあなたの笑顔と健康を守るための最大の防波堤となります。
初めての方は、お電話で「検診希望」とお伝えください。
私たち砂町北歯科は、生涯の健康パートナーとして、全力でサポートさせていただきます。
参考文献
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日本歯周病学会 (2022) 『歯周治療のガイドライン 2022』.
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日本歯周病学会 (2015) 『歯周病と全身の健康 JSP Evidence Report on Periodontal Disease and Systemic Health 2015』.
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日本歯周病学会 (2023a) 『糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 2023 改訂第3版』.
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日本歯周病学会 (2023b) 『高齢者の歯周治療ガイドライン 2023』.
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日本歯周病学会 (2018) 『歯周病患者における口腔インプラント治療指針およびエビデンス 2018』.










